あらゆる言葉が電子化していく。その傾向は新型コロナウイルスの登場で加速している。電子情報の海の中で、私たちの言葉は、時間を超えて「残る」のだろうか。クリストファー・ノーラン監督のSF映画を入り口に、山崎詩郎・東京工業大学助教と考えた。
やまざき・しろう 科学とコミュニケーションの融合をめざす物理学者。アインシュタインの相対性理論が鍵を握るノーラン監督の映画「インターステラー」(2014年)の解説講演を100回近く続けていたところ、映画会社の目に留まり、ノーラン監督の最新作「TENET テネット」(2020年)では字幕科学監修を任された。コマを使った科学教育に取り組む「コマ博士」の異名を持つ。
――言葉は時間を超えますか?
その質問を聞いて真っ先に思い浮かべたのが、「愛は時空を超えるのか」という質問です。映画「インターステラー」の解説講演をしているときに、何十回も受けた質問です。言葉について考える前に、まずは愛について考えてみましょう。
――物理的に言うと、愛はどんなものですか?
「最後に愛は勝つ」や「愛がすべてさ」というフレーズがあります。決して間違いではありませんが、物理的に考えると、「愛」だけが特別な存在とは言えません。愛情や友情も、数ある自然現象の一つとして考えます。
――愛は時空を超えて、遠くにいる人や、未来に伝わりますか?
「インターステラー」では、科学者たちは滅亡寸前の地球を後に、第二の地球を探して宇宙へ飛び立ちます。主人公らが二つの惑星から一つを選ぶ究極の選択を迫られたとき、アン・ハサウェイ演じる博士が言います。「愛は時間も空間も超えるものかもしれない」。だから、先発隊だった恋人のいる惑星を選ぶべきだと。
――そんなロマンチックなシーンも否定してしまうのですか?
否定しているわけではありません。ただ、物理的に考えると、ラブビームみたいなものが、時空を超えて伝わっているわけではありません。では愛は物理的にはどのようにとらえたらいいのか。たとえば、生まれた時からまったく別々の場所で育ち、お互いに会ったこともない人の間に、突然愛情が芽生えることはないでしょう。愛や友情は、同じ家庭や環境で育ち、お互いの脳にお互いの情報を共有するところから始まります。
――遠く離れていても、恋しくなることはあります。
例えば、A男がニューヨークに…
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